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ミニシンポジウム報告 「次世代にどのような社会を贈るのか?」

アザラシさんの報告第三弾!

 

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日本生物地理学会主催 立教大学理学部共催 ミニシンポジウム「次世代にどのような社会を贈るのか?」
2014年4月12日 13:30から18:30 立教大学タッカーホール

原発維持派と原発反対派の討論。
ただし、維持派は軽水炉は反対トリウム溶融塩炉推進、です。
トリウム溶融塩炉はまだ実現していないので、軽水炉推進派と反原発派との

討論ほどは生々しくはなかった。

でも、色々な分野の方の話を聞けて面白かった。

趣旨説明 森中定治(日本生物地理学会会長)

日本生物地理学会は創始者蜂須賀正氏の意志を継ぎ「学問と一般人の接点を目指す」ために、公開市民シンポジウムを開催してきた。

物質の毒性は一般には半致死量(LD50)で示す。
そこで「放射能による害はタバコの害や交通事故の危険性より小さい」という

論が生まれる。
しかし、例えばプルトニウムの場合は、プルトニウム粉末が自然環境内に放たれると、2万年以上(半減期は24000年)生態系の中で循環して生物に遺伝的変化をもたらす。ガンや白血病、奇形児の誕生にとどまらず、人間が意図しない遺伝的変異を次世代の生物に与える。このような視点は生物学からこそ提供できる。

軍事力を背景に置かない平和を実現するためには、敵地に一人で丸腰で乗り込む胆力を持つことが必要。
原発については、反原発派と維持派が対論することが大切。
今回は、原発維持派(森中)と原発反対派(小出)が対論する。
森中氏は「軽水炉は廃止、しかしプルトニウムをなくすためにトリウム溶融塩炉を推進」という立場。

講演1 小出裕章
1. 福島の事故は未だ収束しておらず、多くの人々が避難生活を余儀なくされている。
放射線は生命体にとって圧倒的に有害であり、その利用は最小限にとどめる必要がある。
原子力は、リスクを受ける主体とベネフィットを受ける主体が分離している。このような場合は、リスク・ベネフィット解析は成り立たない。
2. 原子力にかけた夢はことごとく幻であった。
ウランは核分裂性ウラン(U-235)を使う限り貧弱な資源。
発電単価は、実際の経営データによれば、原発が最も高い。
事故による賠償費用は膨大。
核分裂生成物を無毒化できない。放射性物質は10万年から100万年間、環境から隔離する必要がある。その費用は計算すらできない。
プルトニウム核燃料サイクルは実現できる見込みがない。
3. トリウム溶融塩炉に夢をかけることも誤りである。
最高の冷却剤は水である。
水を冷却剤として使う軽水炉でさえ破局的な事故を起こし、経済性すら成り立たない。況やトリウム使用の原子炉の安全性には疑問がある。
トリウムはもともと全て非核分裂性。それを原子力の燃料にするためには核分裂性のウラン(U-235)に変換する必要がある。それはプルトニウムサイクルと同様に、迂回生産であり、実現可能性が低い。
トリウムサイクルの唯一の利点はプルトニウムを燃やすことである。
しかし核分裂生成物の生成は避けられない。
4. 科学の暴走に歯止めをかけ、生命系に相応しい科学を作る必要がある。
人が科学的心を持つことは自然なことであるし、科学的な考え方が大切である。
科学が人類の豊かな生活を切り開いてきたことも事実である。
しかし一方で科学は圧倒的な大量破壊兵器を作り、環境を破壊した。
原子力は核と一体であり、それに依存する限り世界平和は築けない。
原子力は即刻廃絶すべきである。
最終的には太陽エネルギーに頼ることになるだろう。
世界人口の1/4の国が、世界のエネルギーの65%を消費する、というエネルギーの不均衡があり、エネルギーを使えない人々がエネルギーを使いたいと言うのは自然な欲求である。
しかし全ての人が先進国並みのエネルギーを使えば、地球は破滅するだろう。
先進国のエネルギーを低エネルギー国に回して、エネルギーの均衡化をすべきである。
生み出してしまった放射性物質の少しでもましな処分方法を見つけることは科学の最低限の責任であるが、生命体に相応しい科学こそ、創り出し、次世代に贈るべきものである。

講演2 森中定治

1. 原発に反対するのはプルトニウムが取り出されるという理由から。
プルトニウムの怖さ
(1)飛程(放射能の到達距離) 空気中で50cm、体内で1mm。探知不可。持ち運び加工可能。
(2)高エネルギー U235 の3万倍。U238の19万倍。 細胞から完全に除去することは困難。
(3)核爆発する必要なく、粉末にして撒くだけで武器になる。半減期24000年。
このような現代のゴミは現代で処理すべき。
2. プルトニウムは人口元素なので、原子炉で消すしか方法がない。
100万kW/hの原子炉を1年間運転して生じるプルトニウムは、トリウム溶融塩炉では、軽水炉の1/500
3. 現在は化石エネルギー、未来は再生可能エネルギー、そこに至るまでの間は、トリウム溶融塩炉専燃炉を使う。
4. 溶融塩炉は1960年大に米国で3年間運転実績がある。
1981年にレーガン中曽根時代に、トリウム溶融塩炉の話が突然消える。
冷戦時代で、核兵器のためのプルトニウムの必要性が強調されたからだろう。

講演者への質問 コメンテーター

飯野謙次(失敗学会副会長)
日本に原発がなくなっても中国で400基原発ができれば、危険はあるのでは。

小出
全世界で原発を止めてほしい。日本がまず止めてそれを世界に発信すればよい。日本は憲法9条を持っている。憲法9条で不戦を謳っているのだから、不戦を世界に発信すればよい。憲法9条を守らない自民党を倒したい。

後藤政志(原子力市民委員会委員、NPO APAST理事長)
技術的に見た溶融塩炉の実現可能性は。たとえば、もんじゅでナトリウムを冷却剤に使うこと自体は原理的に無理がある。このように技術的に無理なことなのか、そうでないのか。

小出
技術的に困難過ぎる。核分裂反応は研究も含めて須く利用すべきでない。

後藤
技術的に見た溶融塩炉の実現可能性は。失敗の上に改良を重ねて発達するのが技術であるが、溶融塩炉は失敗しないのか。

森中
プルトニウムを消滅させる方法
トリウム溶融塩炉 転換炉 プルトニウムは30年後に95%消滅
プルトニウム溶融塩炉 消滅炉
高速中性子炉 専焼炉
加速器駆動システム(ADS)
プルトニウム消滅はシンボル 放射性物質による人類の殺傷と環境破壊を止めるためのシンボル
軽水炉から溶融炉へ
プルトニウムはそれ自体が核兵器。
プルトニウムを消さなくては核兵器はなくならない。
トリウム溶融塩炉も危険はある。しかし核兵器の危険とのバランスが重要。

会場からの質問に答える

小出
放射線管理区域並の汚染地域が1000km2は事実。
汚染地域の人たちを、国家がコミュニティごと逃がすべき。
核融合は不可能。トリチウム(核分裂物質)を燃料にする。やること自体が危ない。
最終的には太陽エネルギーにたよるすべき。太陽エネルギーの0.2%が波風などのエネルギーになる。しかし日本ではすでに太陽の0.6%のエネルギーを使っている(使いすぎ)。地球の歴史46億年、人類の歴史700万年の長さに比べれば、エネルギーを急激に使い始めたのは産業革命以降200年、しかしその間に絶滅種が急激に増えた。そのようなエネルギーの使い方をしていたら、地球が破滅することは目に見えている。

森中
トリウム溶融塩炉の困難性としては、核分裂生成物が生じることが挙げられる。しかしこれまで実現していないのは、軍人による妨害の歴史によるもので、技術的に致命的な欠陥があるわけではない。

ゲストコメント

加藤登紀子(歌手)
日本人は核廃絶の力になれる。
日本人は近代戦争に責任がある。
原爆投下きっかけを作ったから。
憲法9条があるから。戦争をしない、と決断しているから。
原発はそもそも原爆を作るために導入された。
歴史は物語る。
第5福竜丸が被曝する。その頃は米ソ対立、ベトナム戦争。
中曽根康弘が米国と話し合い、国内の反核運動を沈静化させるために、原子力の平和利用という口実を作り、核兵器を持ちたいがために原発を導入した。
昨年、とうとう原発の「安全保障上の理由(核兵器を持ちたいから原発を持つ)」が明文化された。
中沢啓治作詞の歌を歌います。

秋本真利(自民党衆議院議員)
脱原発になったのは、大学院で原子力政策を研究して、再処理の経済的メリットがないことに気づいたから。
政治家としては、経済的に廃炉しやすくする方法を考えたい。
もんじゅは地域の人たちに約束してしまったので、なかなか止められない。
原発立地の人、電力会社の人、の生活を保障することが必要。
自民党内部から変えたい。
自民党内部では、
推進派 とがったことを言う人は一部
中間派 大多数 「原発はない方がいいけど、方法がわからない」という思い
反対派 河野太郎、秋本 だけ

小山芳郎(ジャーナリスト、元NHKプロデューサー)
3.11をno電気dayにしたら。

木下幹康(東京大学 トリウムテックソリューション)
電力会社にも個人的に頑張っている人、死んだ人、もいる。
原発の問題
放射能ができる
原爆が作れる
この問題に最初に気づいたのはエンリコ・フェルミ
ワインバーグ(加圧水型原子炉の発明者)が究極の原子炉として考えたのがトリウム溶融塩炉
日本人の手で最初からトリウム溶融塩炉を作ることを目指している。

鈴木達治郎(前原子力委員会委員長代理)
3.11の教訓がエネルギー大綱に生かされていない。
技術評価をする第3者機関を作るべき。
原子力・核兵器廃絶研究を進めるべき。

須永昌博(スウェーデン社会研究所所長)
スウェーデンには原発10基あるが、福島事故後にも原発政策に変更はない。
危機管理が進んでいる。

山脇直司(東京大学名誉教授 星槎大学学部長)
ドイツでは90%が反原発。ドイツは核非保有国。
フランスは原発大国。フランスは核保有国。
フランスで、福島と下北の歴史を語ってきた。
下北には、ラーグから下北にモックス燃料が運ばれてくる。
下北半島は、貧困地域だった。貧困地域に核施設が作られる。
これからの正義を語るためには、環境保全と経済格差の問題を同時に語る必要がある。

吉岡律夫(失敗学会副会長)
福島原発の設計を行い、70年代は原発の研究を行った。
プルトニウムの問題、もんじゅの事故を受けて、トリウム溶融塩炉の研究に至った。

討論に対するコメント

後藤
原子力規制委員会は基準(ルール)に合っているかどうかだけを判断する。
危険かどうかは判断しない。
政府は、規制委員会が安全と言ったから運転する、と言う。
結局誰も安全とは言っていない。
技術者としては、「安全」と考えられないものは作ってはいけない。
トリウム溶融塩炉は、現状では「危なさが少ない」というレベル。「安全」とは言えない。これでは技術としては絶対にダメ。

クロージング 山脇
ドイツ人はフランス人と対話せよ。トランスナショナルな討論をすべき。
核問題には、倫理学が必要。ドイツでは、原発の是非は最終的には倫理委員会が行った。
市民と学者、人文科学と理学が交流すべき。


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加藤登紀子さんは最初に、「3.11から3年間、みんな頑張りましたよね。」とおっしゃった。この言葉が胸にじーんと染みこんできて、自分のこの3年間が思い出された。こんな自分でも、これでも、「これまでの3年間頑張った」と言っていいのだと思ってしまった。

後藤政志さんの話は明瞭でわかりやすかった。

討論が大好きな小出さん、その声はいつになく強く情熱的だった。小出さんこそ理性と意志の人。やましいところのある人には攻撃されるだろうけど。
しかし、核分裂反応は全てやるべきでない、とは、加速器を使う素粒子論研究、とか中性子を使った医療、も否定なさいますのか・・・。うーむ。
エネルギーの均等分配、ここまで具体的にはっきりおっしゃったのを聞いたのは初めてかも。